互いの価値感を理解し、 尊重しあう社会へ 石川直宏×木村敬一 互いの価値感を理解し、 尊重しあう社会へ 石川直宏×木村敬一

2017年にFC東京を引退し、クラブコミュニケーターとして
活躍する石川直宏氏、2020年の大きな大会を控える木村敬一選手が
FC東京のグラウンドでブラインドサッカーを体験。
石川氏を魅了してやまないブラインドサッカーの魅力や、
現役時代の秘話、そして、障がい者スポーツを通して考える
「誰もが住みやすい社会」について語り合った。

石川直宏 Naohiro Ishikawa 木村敬一 Keiichi Kimura 石川直宏 Naohiro Ishikawa 木村敬一 Keiichi Kimura
石川直宏 Naohiro Ishikawa

1981年、神奈川県生まれ。5歳でサッカーを始め、2000年、横浜F・マリノスでJリーグデビュー。2002年、FC東京に移籍。アテネ2004大会を目指すU-22日本代表とA代表の両方で活躍。度重なる怪我を乗り越え、ファンを魅了し続けた。2017年の引退後も、FC東京クラブコミュニケーターとしてクラブの発展のために走り続け、講演やメディア出演などで活動中。また、ブラインドサッカーの普及のためにも尽力している。

木村敬一 Keiichi Kimura

1990年、滋賀県生まれ。東京ガス所属。2歳の時に先天性疾患から全盲になり、小学生から水泳を始める。2005年、国際視覚障害者スポーツ協会世界ユース選手権大会で金・銀・銅メダルを獲得したのを皮切りに、国内外の様々な大会で活躍。パラリンピックには北京2008大会に初出場。ロンドン2012大会、リオデジャネイロ2016大会では銀メダル、銅メダルを獲得した日本パラ水泳のエース。2018年春から練習拠点をアメリカに移し、東京2020大会でのベストパフォーマンスを目指し、トレーニングに励んでいる。

ブラインドサッカーを体験

石川
今日はFC東京のグラウンドにお越しいただき、木村さんにもブラインドサッカーを体験してもらいましたが、すばらしい反応に驚きました。ボールに触れてみていかがでしたか?
木村
いろいろ教えていただきありがとうございました。ボールを蹴ったことくらいはあったのですが、ドリブルは初めての体験。楽しかったけど、それよりも緊張が上回りました(笑)。石川さんはなぜブラインドサッカーを?
石川
ぼくは現役時代、何度も怪我に悩まされたのですが、ブラインドサッカーに出会ったのもそんなときでした。2015年頃、膝を手術して入院していたとき、ある方に勧められてスマホでライブ中継を観て、大きな衝撃を受けたのがきっかけです。その後、Jリーグに復帰するまでリハビリに2年半ほど要したのですが、その間に日本ブラインドサッカー協会の方ともつながりができ、同じアスリートとして何かいっしょにできないかと考えるようになりました。
石川直宏×木村敬一
石川直宏 石川直宏

がむしゃらな姿に勇気と感動

木村
ブラインドサッカーのどんなところに衝撃を受けたのですか?
石川
勇気をもってがむしゃらに戦う選手たちの姿です。実際に体験したことがある人は分かるはずですが、こわいんですよ。自分がどこにいるか分からなければ、相手がどこから攻めて来るかも分からない。走ろうにしても壁がある。ぼくなんて一歩踏み出すことすらなかなかできなかったのに、彼らは勇気を振り絞ってチャレンジし続け、非常にレベルの高い試合を見せてくれる。だからこちらも勇気をもらえるのだと思います。
木村
水泳は誰にも侵害されず、ひたすらに自分のコースの中で戦うスポーツ。戦う相手は、強いて言えば自分です。ブラインドサッカーのように果敢にぶつかり合ったりすることはないので、その勇気にはブラインドのぼくでも圧倒されますし、尊敬に値すると思います。

声かけひとつですべてが変わる

木村
先ほどの体験では、石川さんにひと言ひと言、的確な言葉でアシストしていただき、とても分かりやすかったです。ブラインドサッカーはチームスポーツなので、コミュニケーションの要素も大きそうですね。
石川
自分にとっての右は、相手にとっての左。当たり前のことですが、声かけひとつとっても相手を思いやる気持ちひとつで、パフォーマンスが変わってくる競技だと思います。
木村
動きのひとつひとつを細かく指示するには、その人がその瞬間に何をどう感じているかまで察知していないと精度が落ちるでしょうね。その意味では、コミュニケーションのスキルを互いに上げていけるツールとしての大きな可能性を感じました。
木村敬一 木村敬一

「共生社会」の実現のために

石川
現役時代は自分の感覚で物事を判断することが多かったですが、引退してからは、相手の価値観を理解し、互いに共感し合えるかどうか、その重要性に気付かされる機会が増えました。それはブラインドサッカーやパラスポーツの魅力のひとつでもあると思います。みんながそんな感覚を磨くことができれば、世の中は「共生社会」として豊かになるでしょうし、スポーツ自体もレベルアップするはずです。だからぼくは現役のサッカー選手にもブラインドサッカーを経験してもらいたいと思っているんです。
木村
今は学校の授業などでも、目が見えない人の体験や車いす体験など、実際にやってみるケースが多くなりました。ぼくが懸念しているのは、それが「障がいのある人は大変なんだな」という感想だけで終わってしまわないかということです。その点、ブラインドサッカーは「大変なんだろうけど、こんな工夫をすればいいのかな?」という、もう一歩踏み込んだ理解が進むきっかけになるように感じました。
石川
ぼくが考えているのも、まさにそういうことです。障がい者サッカーにもいろいろありますが、ひとつのボールを追っかけるという点では同じ。それこそがサッカーの魅力で、木村さんが言われたように「大変だな」だけじゃなく、楽しかったり、勝負にこだわって悔しがったり、そういうスポーツの本質に入り込むことでコミュニケーションの質もワンランク上がるのかなと感じています。
石川直宏 石川直宏

助け合いが結果につながる

木村
サッカーはゲーム性が高いし、仲間たちとの関係の中で成り立つスポーツだと感じていて、練習も楽しそうだという勝手な印象がぼくにはあります。
石川
おっしゃるようなところもあると思います。木村さんは孤独を感じる瞬間があるんですか。
木村
孤独だらけですよ(笑)。水泳はまずタイムとの戦い。相手を倒すことに違いはないけど、そのためには自分のほうが速ければいい。だから、さっきも言ったように自分との戦いなんです。練習もすごく単調ですし、楽しいと思えるのはタイムが出たときだけ。その点、チームで喜びを分かち合えるサッカーはうらやましいなあと(笑)。
石川
サッカーは、自分にできないことは周りに助けてもらい、逆に周りにできないことは自分が助ける。そんな助け合いが90分の中で多ければ多いほど結果につながるような側面がありますね。もちろん選手以外にも多くのスタッフに助けられています。しかし、いちばん大きな存在がファン・サポーターであることはまちがいありません。
木村敬一 木村敬一

会場の応援こそが原動力

石川
ぼくはFC東京でおよそ16年間もプレイさせていただき、ファン・サポーターの皆さんともそれだけ密にさせていただけたと思っています。怪我でピッチを離れたら自分が忘れ去られてしまうのではないかという恐怖感を何度も味わいました。そんなときでも待っていてくれたファンの応援こそは、ぼくの原動力でした。
木村
最近はパラ水泳も多くの方が会場に足を運んでくださるようになり、それがパフォーマンスを引き出す大きな力になっているように感じます。逆に、海外で戦うときは当然ながら地元の選手への声援がものすごい。大歓声に負けずに泳げるかどうかが鍵になります。
石川
いかに集中できるかですね。集中することに意識を傾けすぎるのもよくないのでは?
木村
ぼくの場合は、集中できているというか、状態がよいときは体が軽くなるような感覚があるんですよ。レースは終盤が苦しいものですが、調子がよいときはまるで流されるようにゴールに着くような感覚があります。
石川
そうですか。ぼくの場合、自分がそんなゾーンに入るときはスタジアムの声援が一瞬途切れたり、ゴールまでの道筋が浮かび上がってくるような、そんなイメージがありましたね。体が軽くなるのに近いけど、何でもできちゃう感覚になって、それで怪我をしてしまったんです。3点とって試合はほぼ決まっていた※のに、自分ではまだいけると思ったし、観に来てくれた方々に更に喜んでもらいたい、自分の生き様や覚悟を観てもらいたいという気持ちがありました。 ※2009年 J1リーグ第29節柏レイソル戦。当該シーズンで得点王争いをするなか、69分に得点するもその際に前十字靭帯損傷で長期離脱。
石川直宏×木村敬一

木村敬一の使命とは?

木村
大勢の観客に見守られていて思うことがあります。パラスポーツというのは、障がいを持っている人のがんばっている姿がそこにあるだけで、ある程度成り立ってしまっているようなところがあるのではないかと。
石川
観る者はその姿にたくさんの勇気をもらえると思いますよ。
木村
だけど、目は見えなくても両手両足は健常者と同じですから、見た目はふつうの水泳と同じ。そうすると、パラ水泳はふつうの水泳の、ちょっと遅い競技と受け取られかねません。それではダメなわけで、ぼくらももっとレベルの高いインパクトのあるパフォーマンスを出していかないといけない。がんばっている姿を見せるだけじゃなく、もっとすごいプレイをしていくことがパラスポーツを成長させるために必要なことだし、自分に与えられた使命なんだと思っています。
石川
なるほど。来年の東京がその機会になりますね。
木村
来年の東京は、ぼくにとって初めての地元での国際大会になるので、とても楽しみにしています。石川さんも水泳をはじめ、観戦にいらしてください。
石川
ぼくも日本代表として魂が震えるような経験をしたことがありますが、自国開催で戦えるような機会はそうはありません。これまで積み上げてきたものを出し尽くして、ぜひ楽しんでください。ぼくも応援に駆けつけたいと思います。
石川直宏×木村敬一

ブラインドサッカー

フットサル(5人制サッカー)を基にルールが考案されました。ゴールキーパー以外の4名は全盲の選手で構成され、前後半各20分で競います。転がると音の出るボールを使用し、加えて敵陣ゴールの裏にはガイドがいて、ゴールの位置や距離、角度、タイミングなどを声で伝えます。そのためプレイ中、観客は静かに見守ることがマナーとなります。
石川直宏さんは「最初は声が出そうになってとまどったが、静かだからこそバチバチとぶつかり合う生々しい音に迫力を感じる。逆に、ゴールが決まった瞬間は大歓声で盛り上がるのもいい」と、その魅力を説明してくれました。

頑張る人に、いいエネルギーを。